Lancet 2024年報告に基づく認知症リスク低減の四季別アプローチ
2026年01月22日
目次
2024年の報告が示す予防可能性の拡大
認知症は、世界的な公衆衛生上の喫緊の課題で、2050年までに患者数が1億5,300万人に達すると予測されています。これまで認知症は加齢に伴う不可避な現象と捉えられていましたが、2024年にLancet委員会から発表された最新の報告書は、全認知症症例の約45%が予防、または発症を遅延させることが可能であるという希望的なメッセージを提示しました。これは、2020年報告の40%から5ポイント向上した数字です。
中年期対策が認知症予防の要となる科学的根拠
寄与割合を見ると、中年期のリスク要因が認知症発症に最も大きな影響を与えていることが明らかになりました。中年期の主要な危険因子として、難聴(7%)、高LDLコレステロール(7%)、うつ病(3%)、外傷性脳損傷(3%)、身体不活動(2%)、糖尿病(2%)、喫煙(2%)高血圧(2%)、肥満(1%)、過度の飲酒(1%)が挙げられ、これらの合計は30%に達します。
なぜ中年期がこれほど重要なのか。その理由は認知症の病理学的進行過程にあります。認知症の症状が現れる前に、脳内では20~30年にわたって神経病理学的変化が徐々に進行します。つまり、40代や50代の生活習慣が、将来の認知機能を決定づける「認知的予備力」を構築する上で最も重要な期間だということです。
「予防的アプローチは早ければ早いほど良く、長ければ長いほど良い。」という原則が強く適用され、重要な予防時期である「中年期」を「18歳から65歳」と大幅に拡大された対策に焦点を当て、春夏秋冬のサイクルに合わせた具体的な取り組み方法を提案します。
冬(12~2月):社会的つながりと精神的健康の季節
冬は日照時間が短く、外出機会が減少し、社会的孤立やうつ病のリスクが高まる季節です。この時期こそ、意識的に社会的つながりを維持することが重要となります。
社会的孤立は晩年期の重要なリスク要因となっていますが、中年期から予防的に対処すべき課題でもあります。地域コミュニティへの参加、趣味のサークル活動、オンラインでのつながりなど、多様な形で社会的ネットワークを維持・拡大できるとよいでしょう。
うつ病への対応も冬季の重要課題といえます。未治療の人と比較して、薬物治療(ハザード比0.77)、心理療法(同0.74)、または併用療法(同0.62)によるうつ病治療を受けた人は、認知症の発症が有意に少なくなりました(全体:同0.69)。冬季うつ傾向がある場合には、専門家への早期相談をおすすめします。
また、冬場は大気汚染への注意も必要です。暖房使用による室内空気質の悪化、PM2.5濃度の上昇などに留意し、空気清浄機の使用や換気の工夫をしてください。世界保健機関(WHO)は年間平均PM2.5濃度5μg/m³未満を推奨しています。
さらに、冬は過度の飲酒にも注意が必要な季節です。特に、年末年始の宴会シーズンはアルコール摂取量が増加しがちなので、適度な飲酒を心がけてください。

春(3~5月):新生活と健康診断の季節―血管リスク管理の徹底
春は多くの企業や自治体で健康診断が実施される時期です。この機会を活かし、血管系リスク要因の評価と管理を行いましょう。
高LDLコレステロール、高血圧、糖尿病、肥満―これら血管系リスク要因の管理は春の最優先課題といえます。予防可能な14項目のうち8項目(大気汚染、高LDLコレステロール、身体不活動、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒)は脳卒中の修正可能な危険因子でもあり、血管性認知症の予防にも直結しています。
また、春は禁煙を始めるのに適した季節でもあります。新年度という節目を活かし、喫煙習慣の見直しを行ってください。

夏(6~8月):活動の季節―身体活動と聴力保護
夏は屋外活動が増える季節であり、身体活動の推進に最適な時期です。身体不活動は認知症の重要なリスク要因であり、運動は認知的予備力を高めることが示されています。ウォーキング、水泳、サイクリングなど、自分に合った運動習慣を確立できるとよいですね。
一方、夏場に注意すべき点として聴力保護があります。野外フェスティバル、花火大会、レジャー施設など、大音量にさらされる機会が増えます。聴力が10dB悪化するごとに認知症リスクが16%増加するというデータがあり、難聴は中年期のリスク要因の中で最も大きな割合(7%)を占めているほどです。イヤープラグの使用、大音量の回避、適切な音量でのイヤホン使用など、聴力保護を意識してください。
また、夏場は外傷性脳損傷のリスクも高まります。水上スポーツ、サイクリング、登山などでは適切な頭部保護装置を使用してください。

秋(9~11月):知的活動と視力管理の季節
秋は「読書の秋」「芸術の秋」として、知的・文化的活動に適した季節です。教育水準が高く、社会での認知的刺激を受け続けることは認知症リスクを軽減します。職場での認知刺激が高い人は、職場での認知刺激が低い人よりも認知症リスクが低いことが報告されています。退職された方も読書、楽器演奏、美術鑑賞、新しいスキルの習得など、脳に適度な刺激を与える活動を積極的に取り入れられるとよいですね。
また、秋は視力管理にも適した時期です。2024年報告で新たに加わった未治療の視力喪失が認知症症例の2%に関連しているように、白内障手術を受けた人は受けなかった人より認知症リスクが有意に低下する(ハザード比0.71)というエビデンスがあります。眼科検診を受け、眼鏡の度数調整や白内障治療などを検討してはいかがでしょうか。

遺伝的リスクに関係なく修正可能
Lancet委員会によると、ApoEの遺伝的状態に関係なく、これらのリスクによる修正が可能であるとのことです。複数の危険因子に対処する多因子介入は、遺伝的認知症リスクが高い人にも低い人にも有益な可能性があります。「遺伝を変えることはできないが、生活習慣は変えられる」―これが予防医学の基本原則です。
まとめ
四季を通じた体系的な予防プログラムは、認知症予防を日常生活に組み込む実践的なアプローチです。冬の社会的つながりと精神的健康、春の血管管理、夏の身体活動と聴力保護、秋の知的活動と視力管理、―これらを自分自身だけでなく、家族やご近所にも目を向けて声をかけ合うことで、拡大された中年期「予防に最も重要な時期」に周囲の人とともに、最大限の取り組みを実施できることになります。
認知症の45%が予防可能という数字は、私たち一人ひとりが持つ力を示す、科学に裏打ちされた希望になります。今日から行動を始めることが、未来の自分への最高の贈り物になることでしょう。
参考文献
- Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet Commission. Lancet 2024; 404: 572-628.
- Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet 2020; 396: 413-446.
- Livingston G, Sommerlad A, Orgeta V, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet 2017; 390: 2673-2734.

