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認知症予防コラム

脳のゴミ掃除力を高める秘訣

2025年07月30日

ApoEと脂質代謝から考える認知症予防

近年、認知症の研究が進む中で「体の中の脂の動き」が脳の健康に深く関わっていることが明らかになってきました。私たちの脳の中で「ゴミの掃除屋」として重要な存在である「ApoE(アポリポタンパク質E)」というタンパク質にはアミロイドβという脳の老廃物を片付ける働きがあります。このApoEの働きは、生活習慣によって強めることも弱めることもできるのです。

脳の老廃物アミロイドβ(アミロイドベータ)とは?

脳の老廃物「アミロイドβ(アミロイドベータ)」とは、脳内で日常的に作られるタンパク質の一種です。健康な脳では適切に分解・除去されますが、加齢や様々な要因により蓄積すると、神経細胞にダメージを与え、アルツハイマー型認知症の原因となることが知られています。アミロイドβは認知症発症の15~20年前から蓄積し始めるため、早期に対策することが重要です。

ApoEは”脳の掃除屋さん”

ApoEとは、血液中や脳内で脂質(コレステロールやリン脂質など)を運ぶタンパク質です。

脳内では「ApoE-HDL」という形で、神経細胞のまわりにたまったアミロイドβの除去に関与し、ゴミとして回収・除去する”お掃除係として働いています。

ただし、ApoEの働きは直接的な結合だけでなく、間接的にも影響を与える複雑なメカニズムが関与しています。

ApoEの遺伝的なタイプによって、その能力に差があります。なかでも「ApoE4型」と呼ばれるタイプを持つ人は、アミロイドβの除去効率が悪く、認知症のリスクが高くなることが科学的に明らかになっていますが「遺伝は仕方ない」と諦める必要はありません。

最近の研究では、生活習慣を改善することにより、ApoEの働きを助けることができることが明らかになってきています。

脂質代謝の乱れが脳に与える影響

中高年における脂質代謝の乱れは、脳の環境に悪影響を及ぼします。血中の中性脂肪が多いと脳への血流が悪くなり、老廃物であるアミロイドβが溜まりやすくなります。また、内臓脂肪が増えることで炎症物質が分泌され、ApoEの掃除屋としての働きにも悪影響となります。

研究により、中年期における高い中性脂肪トリグリセリド)値により、20年後の脳内アミロイドβ蓄積の予測が可能であることを示す研究結果があります。これは主に動脈硬化を介した血流悪化により、間接的にアミロイドβの片付け効率が下がることが原因と考えられています。

内臓脂肪組織からは、炎症を引き起こす物質(INF-γやTNF-αなどの炎症性サイトカイン)が分泌されます。これらの炎症性物質により、ApoEの産生量が低下すること示す研究結果があります。脳の神経細胞の膜は、リン脂質などの脂で構成されています。加齢や食生活によってこの膜が脆くなっていくと、神経の働きそのものも鈍くなっていきます。

今日からできる脳を守る脂質の整え方

ApoEが本来の力を発揮できる環境を整えるには何を改善していけばいいのでしょうか。

  • 良質な脂をとる

青魚に含まれるEPA・DHA(オメガ3脂肪酸)は、脳の構成成分として重要で、認知機能の向上と認知症予防に効果が期待されることが多数の研究で確認されています。また、ナッツ類も抗酸化物質やビタミンEを含み、認知機能の維持と認知症リスクの低下に寄与する可能性が科学的に示されています。

  • 加工肉やスナック菓子を避ける

加工肉やスナック菓子、揚げ物などに多いトランス脂肪酸や酸化した脂質は、血管を傷つけ、炎症の原因になるため、控えたい食品です。

  • 運動は脂のめぐりを整える

ウォーキングや軽い筋トレなどの有酸素運動は、中性脂肪を減少させる効果があり、同時に脳血流を改善し、認知機能の向上に寄与することが多数の研究で確認されています。

  • 野菜と果物は脂の守り手

色とりどりの野菜や果物には、抗酸化物質が豊富に含まれており、脂質が酸化して悪さをするのを防いでくれます。特にビタミンEやポリフェノールを意識するとなお良いでしょう。

今日からできる実践アイデア

  • 朝食のトーストにバターの代わりに白米や納豆にする
  • お惣菜を購入するなら、揚げ物より焼き魚やアボカドやゆで卵の入ったサラダを選ぶ
  • おやつにナッツや高カカオチョコを取り入れる
  • 1駅分だけ歩く”軽運動”からスタート

生活習慣を見直すといっても特別なことをする必要ありません。ApoEの働きをサポートする暮らし方は、日常の中で十分に簡単に継続的に実践していくことができます。

まとめ

ApoEという脂質を運ぶタンパク質は、脳の”ゴミ掃除屋”として私たちの記憶や思考を守ってくれている存在です。日頃の生活習慣でApoEの働きが鈍くなることも良くなることあると研究によって分かってきました。

遺伝や加齢だから仕方がないと考えがちな認知症は、生活習慣を見直し、脂質代謝の乱れを整えることで、認知症のリスクを下げられると考えられます。

未来の自分を守るために、今日から「脂質との付き合い方」を少しだけ意識してみませんか?

 

参考文献

名古屋市立大学. “APOE4研究”. (2025年7月1日閲覧)

日本老年医学会. “アルツハイマー病における脂質代謝と神経毒性の関連”. 日本老年医学会誌『脂質とアルツハイマー病』. 2023.

Frontiers in Aging Neuroscience(2023). Aerobic exercise and brain health in APOE4 carriers

NIH Research Matters(2024). Study reveals how APOE4 gene may increase risk for dementia