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認知症予防コラム

認知症を予防する睡眠時間と昼寝とは?良質な睡眠のポイントも解説

2025年07月07日

睡眠不足が続くと倦怠感やめまい、頭痛などの身体の症状だけでなく、集中力や思考力が低下するなど認知機能の低下を感じた経験がある方もいるのではないでしょうか。睡眠は心身の回復を促し、健康的な生活に欠かせないものです。

しかし、十分に寝たつもりでも睡眠の質が悪ければすっきりとした目覚めは得られません。近年、睡眠時間や昼寝と認知機能の関連についても研究が進められています。本記事では、睡眠と認知症の関係について詳しく解説します。

睡眠時間と認知症

睡眠時間と認知症の関連について、研究結果をもとに考えていきます。

睡眠不足だけでなく、寝すぎも認知症リスクを高める可能性

久山町研究によると、認知症のない60歳以上を対象とした調査で「年齢および性別調整後の認知症発症率および全死亡率は、1日の睡眠時間が5.0時間未満および10.0時間以上の被験者の方が、1日の睡眠時間が5.0~6.9時間の被験者よりも有意に高かった」¹)と報告されています。

睡眠時間が短いと、休息が十分に取れず、認知機能の低下につながることは理解しやすいでしょう。しかし、10時間以上の長時間睡眠でも認知機能の低下がみられるというのは、意外な結果ではないでしょうか。

認知機能の低下には、身体活動や社会参加の機会の減少が大きく関係するといわれています²)。睡眠時間が長くなると、日中の活動量や社会参加の機会が減ることが、認知症リスクを高める要因の一つと考えられます。

適した睡眠時間は個人によって異なる

「睡眠時間は生まれ持った体内時計が要因の一つであり、ロングスリーパーの人の睡眠時間を短縮しようとすると適応しにくい可能性がある」3)と報告されています。

もともと長時間睡眠が必要な人が無理に睡眠時間を削ると、かえって睡眠不足になる恐れもあります。そのため、翌朝に「スッキリ目覚める」「疲れが回復したと感じる」といった主観を意識し、自分に合った睡眠時間を見極めましょう。

昼寝と認知症

日中の短時間の昼寝はパフォーマンスを向上すると耳にしたことがある方もいるかもしれません。昼寝と認知機能の関連について研究報告をもとにみていきましょう。

昼寝と認知症の関連についての研究では「1日1時間以上の昼寝をする人は、1時間未満の昼寝をする人に比べて、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが1.4倍高い」4)と報告されています。同様に「1日に1回以上昼寝をする人は、1回未満しか昼寝をしない人と比べて、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが40%高い」4)ことが示されました。

研究報告では昼寝の長さや頻度とアルツハイマー型認知症に発症リスクに相関があることから、1時間以上の昼寝や毎日の昼寝が認知症のリスクを高める可能性があると考えられます。

また、高齢者の昼寝時間と夜間の睡眠の質に関する研究では「31分以上の昼寝は夜間睡眠の質の低下」5)の可能性が示唆され「15時以降の30分以内の昼寝は夜間睡眠の質を良好に維持」5)すると報告されています。昼寝をする場合は夜間に良質な睡眠を得るためにも15時以降に30分以内とするのがよいでしょう。

良質な睡眠をとるための5つのポイント

「不適切な睡眠時間や睡眠の質の悪さ、睡眠に関する病気は認知症を発症するリスクがあります。」6)認知症予防には質の良い睡眠をめざしましょう。「健康づくりのための睡眠ガイド2023」7)の内容をもとに、良質な睡眠のための5つのポイントをお伝えします。

1.昼間は活動!昼夜のメリハリを

昼間に長時間の昼寝をしないためにも活動的に過ごすことが大切です。地域で行われている運動や活動などに参加するなど、日中は外に出て日光を浴び、アクティブに過ごす習慣をつけましょう。

2.寝室の音・光・温度を整えて

光や音は睡眠を妨げます。寝室はできるだけ暗く、静かな環境を整えましょう。温度環境も入眠の状態や睡眠時間に影響します。夏はエアコンで涼しい環境を維持し、冬は寝る前にできるだけ暖かい部屋で過ごすようにしましょう。

3.入浴は寝る1~2時間前に

寝る前に体を温めると寝つきが良くなります。寝る1~2時間前に入浴してすみやかな入眠を促しましょう。入浴にはリラクゼーション効果もあります。寝る前には腹式呼吸や音楽、アロマなど自分に合ったリラックス方法を取り入れましょう。

4.夕方以降はカフェインを避けて

夕方以降にカフェインを摂取すると入眠を妨げ熟睡しにくくなります。また1日400mg以上のカフェインをとると質の良い睡眠が得られにくくなる可能性があるため、コーヒーはカップで3杯まで、ペットボトルコーヒーは1本までにしましょう。

(ただし、個人差やその日の体調等により異なる可能性があるので、注意してください)

まとめ:適切な睡眠時間と質の良い睡眠環境を整えよう

質の良い睡眠は心身の回復を促し、認知症予防にもつながります。1日5時間未満または10時間以上の睡眠は認知症の発症率を高める可能性も示されていますが、個人によって適した睡眠時間は異なります。翌朝に「ぐっすり眠れて体が軽い」といった感覚が得られる睡眠時間を目安にしましょう。

また、1時間以上の昼寝や毎日の昼寝はアルツハイマー型認知症の発症リスクを上昇させるといわれてます。夜間に質の良い睡眠をとるためにも日中は運動や趣味、買い物など、活動的に過ごしましょう。睡眠環境を整えることも大切です。良質な睡眠をとるための5つのポイントを参考に生活習慣や睡眠環境を見直しませんか。

引用・参考

1)Tomoyuki Ohara et al. Association Between Daily Sleep Duration and Risk of Dementia and Mortality in a Japanese Community J Am Geriatr Soc. 2018;66(10):1911-1918

2)厚生労働省 介護予防マニュアル第4版

3)Daniel Aeschbach et al. A longer biological night in long sleepers than in short sleepers J Clin Endocrinol Metab. 2003;88(1):26-30.

4)Peng Li et al. Daytime napping and Alzheimer’s dementia: A potential bidirectional relationship Alzheimers Dement.2022;19(1):158–168

5)斉藤リカ、松田ひとみ 高齢者の昼寝所要時間による特徴と夜間睡眠との関連 高齢者ケアリング学研究会誌2013;4(1):1-10

6)国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターあたまとからだを元気にするMCIハンドブック第2版

7)厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023 (案)