認知症とセノインフラメーション
2025年06月20日
「セノインフラメーション」という言葉を聞いたことがありますか?認知症の発症・進行に関与していると言われています。本記事では、セノインフラメーションとは何か、認知症とどのような関係があるかを説明します。脳の炎症を抑えると期待される迷走神経を刺激する方法についても紹介しますので、日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
目次
セノインフラメーションとは?
セノインフラメーションとは、「senescence(老化)」と「inflammation(炎症)」を組み合わせた言葉で加齢に伴う慢性的な炎症状態を意味します。近年では、この加齢による脳内環境の変化が、認知症などの神経変性疾患の発症・進行に深く関与していることが明らかになってきました1)。
グリア細胞の役割
脳の神経細胞以外の細胞はグリア細胞と呼ばれます。グリア細胞にはミクログリアやアストロサイトといった種類があり、ミクログリアは脳内の異物や老廃物を分解する働きや免疫機能において重要な役割を持っています。アストロサイトの役割は、血液脳関門の維持やシナプスの神経細胞同士の情報伝達に関わる調整などです2)。
グリア細胞の老化とセノインフラメーション
グリア細胞は、通常は神経細胞を守る役割を担っていますが、細胞の老化や炎症が慢性化すると、その数が増え、過剰に活性化します。その結果、脳機能に悪影響を及ぼし、多発性硬化症や脳梗塞、アルツハイマー型認知症などの発症に関与すると考えられています。通常は脳を守っているグリア細胞などが脳を破壊して悪影響を与えるきっかけと考えられているのが脳内で起こるセノインフラメーションです。
セノインフラメ―ションと認知症
アルツハイマー型認知症ではアミロイドβやタウ、レビー小体型認知症ではαシヌクレイン、前頭側頭葉変性症ではTDP-43やタウの蓄積が認められ、それらが神経変性の進行に関与していると報告されています3)。
アミロイドβ、タウ、αシヌクレイン、TDP-43などの異常なタンパク質の蓄積や神経障害は、細胞の老化と慢性の炎症であるセノインフラメーションを通じ、引き起こされます1)。脳内のセノインフラメーションが認知症の発症に関わっていると考えられており、老化したグリア細胞や異常なタンパク質などの物質を尿や血液、唾液、汗などのスクリーニング検査によって早期発見し、診療につなげるフローの研究が進められている段階です1)。
また、アルツハイマー型認知症の早期では、ミクログリアなどのグリア細胞の機能低下が、病態の進行に関与することも示されました4)。具体的には、ミクログリアが異常物質を食べて処理する力が低下し、炎症を引き起こすタイプのミクログリアが増えてしまいます。その結果、ミクログリアは異常なタンパク質をうまく除去できなくなる一方で、炎症性の物質が増え、神経細胞にダメージを与えるようになります4)。
関連記事:脳の炎症が認知症の原因に?タウタンパク質が脳炎症を引き起こす仕組み
脳内の炎症を抑える可能性のある生活習慣
セノインフラメーションが起こる要因の一つに慢性的な炎症があり、これを抑える手段として注目されているのが体内の炎症性サイトカインの産生を制御する迷走神経です。迷走神経刺激により、脳内で神経のつながりを強める物質が放出され、記憶や学習に関わる脳の働きが高まるほか、炎症を引き起こす物質の働きも弱まり、神経のダメージを抑える可能性も示唆されています5)。迷走神経刺激で、アルツハイマー型認知症の進行や認知機能の低下を緩やかにすることが期待され、現在も研究が続けられています5)。
日常生活で取り入れたい迷走神経刺激の例
迷走神経は以下のような習慣によっても刺激できると考えられています。
・腹式呼吸などの呼吸法6)
・ヨガや瞑想などのリラクゼーション習慣6)
・冷水シャワー、顔を冷水につける7)
・ハミング、歌唱、うがい、声を出す8)
迷走神経刺激によって認知症発症や進行の要因の一つとなる炎症の抑制やストレスの軽減が期待できます。
脳の炎症を抑える生活習慣で認知症予防に
認知症の発症には、加齢による細胞の老化と慢性的な炎症であるセノインフラメーションが関与しています。最近の研究では、脳と腸・免疫をつなぐ迷走神経を刺激することで炎症を抑える可能性が示されています。
迷走神経刺激は認知症の発症・進行させるリスクとなるストレスをやわらげ、自律神経のバランスを整えることも期待される方法です。呼吸法、瞑想、冷水刺激、声帯や顔の筋肉を動かすなど、日常生活に取り入れられる方法もあるので、無理のない範囲で取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考文献