認知症予防に効果が期待できる栄養素
2025年06月09日
高齢化の進行とともに認知症患者数も年々増加しています。2015年に発表された「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計によると、65歳以上の認知症患者数は2012年が462万人だったのに対し、2025年には675万人と5.4人に1人は認知症になると予測されていました。2024年に発表された「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」では、2025年の認知症患者数は472万人と、以前の推計よりは減少したものの、それでも8人に1人は認知症になる計算です。
しかし最近の研究では、認知機能を高めるあるいは認知症の関連物質を減少させる効果が期待できる栄養素が解明されつつあります。
この記事では、認知症予防に効果が期待できる栄養素と含まれている食材について、研究報告を用いてわかりやすく説明していきます。
記憶力や判断力を向上させるDHA
認知症予防の点から近年注目を集めているのが、オメガ3系脂肪酸の一つであるDHAです。
DHAはサンマやアジ、イワシ、サバなどの青魚に多く含まれていて、記憶力や判断力を向上させる効果が期待されています。
脳は乾燥重量の約50-60%が脂質であり、脂肪酸は主にリン脂質の構成脂肪酸として細胞膜に存在しています。その中でもDHAは総脂肪酸の11%を占め、他のオメガ3系脂肪酸であるα-リノレン酸(約0.2%)やEPA(0.1%以下)と比べて脳に多く含まれているのです。
このように脳に多く含まれているDHAですが、体内で作り出せるDHAはごく微量である上に脳内では作り出すことができないため食事から摂取しなければなりません。しかし、日本でも広まっている欧米型の食事では、食用油などに多く含まれるリノール酸などのオメガ6系脂肪酸の摂取量の増加により、オメガ3系脂肪酸が相対的に欠乏する可能性も指摘されています。オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸のバランスが崩れてしまうと、心・血管系機能だけでなく中枢神経系の機能も低下してしまい、脳の発達障害やうつ病、認知症などの発症要因の一つになると考えられています。
オメガ3系脂肪酸が注目されるきっかけとなったのが、グリーンランドの先住民であるイヌイットの調査報告です。彼らには心筋梗塞の発症率が低いという民族的な特徴があり、その要因を解き明かすために多くの基礎・臨床研究やヒト介入試験が行われ、オメガ3系脂肪酸の作用が明らかになってきました。
DHAの主な作用としては、記憶・学習機能向上作用と神経保護作用が期待されています。橋本らの研究では、DHAを投与したラットにおいて、空間認知機能の向上や抗酸化能の増強、シナプス小胞膜流動性の亢進、海馬・大脳皮質の脳由来神経栄養因子(BDNF)産生の増加などが認められたと報告されました。
また、多くの横断研究や大規模なコホート研究で、DHAを多く摂取する高齢者は加齢に伴う認知機能低下が緩やかになることや、認知症の発症予防に魚の摂取が有効である可能性が報告されています。
このように、普段からDHAを含むオメガ3系脂肪酸を積極的にとることで、認知機能低下を抑制する可能性が示唆されています。
ホモシステインを減少させる葉酸とビタミンB12
ほうれん草や小松菜、菜の花などの緑黄色野菜、いちごやキウイ、オレンジなどの果実類。レバーや海藻類に多く含まれている葉酸とビタミンB12は認知症の関連物質を減少させると期待されています。これらの栄養素が不足すると、肝臓で作られる悪玉アミノ酸であるホモシステインが増加すると言われています。
ホモシステインの濃度上昇は認知症の発症率と深い関係があると考えられています。アルツハイマー型認知症の原因とされているアミロイドβの作用を強める他、神経細胞死につながると考えられる脳血管虚血、メチル化反応の抑制などを通して脳に悪影響を及ぼすのではないかと言われています。
血中ホモシシテイン濃度の高い高齢者が葉酸とビタミンB12、ビタミンB6 を合わせて2年間摂取したところ、ホモシステインの低下が見られたという研究結果がある一方で、認知能力に対する効果はみられなかったと結論づける研究もあります。
しかし一部の研究において、ベースラインのホモシステイン濃度でビタミンB摂取状況を考慮すると、別の見え方ができるといいます。認知機能低下のハイリスク群では、ビタミンB補充で認知機能低下を遅らせたと指摘しています。
このように、葉酸とビタミンB12の摂取はホモシステイン濃度の減少につながると考えられます。その後、認知機能にどのような影響を及ぼすかは更なる研究が必要なようです。
まとめ
高齢化が進むとともに認知症患者数は年々増加傾向にあり、自身でも予防に努めていくことが大切だと考えられます。
食事は今日からでも気をつけることができ、近年では認知機能を高めるまたは認知症の関連物質を減少させる効果が期待できる栄養素が解明されつつあります。
DHAや葉酸、ビタミンB12はその一例であり、日々の食事の中で積極的にとりたい栄養素の一つです。
認知症のメカニズムは未だ解明されていない部分もありますが、様々な研究で得られた結果が、認知症の予防・治療へと活かされることを期待したいですね。
参考文献