脳の炎症が認知症の原因に?タウタンパク質が脳炎症を引き起こす仕組み
2025年02月28日
脳の炎症が認知症を引き起こす?脳炎症を引き起こすタウタンパク質
アルツハイマー型認知症の原因物質として昨今注目されている「タウタンパク質」。
このタウタンパク質が脳内に過剰に蓄積することで脳炎症を引き起こし、神経細胞死による認知機能の低下につながることが近年の研究で明らかになってきました。
タウタンパク質を効率よく除去する方法はあるのか。本記事ではこれらの内容を簡潔に解説しています。今日からできる対策も紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
タウタンパク質と脳炎症の関連性
タウタンパク質とは、細胞内の物質の輸送や細胞の構造を保つ役割を担う微小管(びしょうかん)同士を結合するタンパク質です。一般的にタウタンパク質は、微小管と結合しているか、細胞内の液体に溶け込んでいるかして体内に存在しています。
しかし、アルツハイマー型認知症のような一部の神経変性疾患において、「可溶性タウタンパク質」という溶けやすい性質をもつものの濃度が脳の一部で過剰になります。すると、「神経原線維変化」という溶けにくい構造を形成してしまい、記憶に関連する海馬などに多く蓄積してしまうと神経細胞死を引き起こしてアルツハイマー型認知症の発症を招くのです。
また、タウタンパク質は神経細胞から細胞の外に排出されて脳の炎症の原因となる、または取り込まれるべき神経細胞とは離れた場所で蓄積してしまい、脳の機能に悪影響を及ぼしてしまうとも考えられています。
現在、タウタンパク質の蓄積がなぜ起こるのか、原因がはっきりとわかっていません。タウタンパク質を効率よく脳内から排出し、過剰な蓄積を防ぐことができれば、脳炎症を抑制できて認知症の発症予防や治療の可能性が高まると期待されています。
グリアリンパ系の促進がタウ除去のカギ
では、タウタンパク質の排出を効率的に行うにどのような手段が有効だと考えられているのでしょうか。その手段として、グリアリンパ系の促進が提唱されています。
グリアリンパ系とは、脳内にある老廃物を除去する役割を担う機構です。体内にあるリンパ系と同様の働きをしており、星状膠細胞(せいじょうこうさいぼう)というグリア細胞の一種が形成するトンネルのようなものとその中を流れる脳脊髄液を介して老廃物を除去します。
この重要な働きを担っているのが、アクアポリン4という水を透過させるタンパク質です。アクアポリン4はグリアリンパ系においてスムーズに脳脊髄液などを流す役割があり、アクアポリン4が無くなってしまうと脳内の循環が滞ってしまいます。
東京大学医学系研究科の石田らのマウス実験によると、蛍光物質を付けたタウタンパク質を使用し、グリアリンパ系の機構によって細胞外に排出されたタウタンパク質が脳脊髄液内に乗ることがわかりました。さらに、首にあるリンパ節を経由して、脳の外側に排出される様子も観察されています。
一方で、アクアポリン4が無くなっているマウスでは上記の除去される流れが滞ってしまい、結果として脳内のタウタンパク質量が増加することが示されました。また、脳の神経細胞にタウを異常に蓄積するマウスにおいて、アクアポリン4が無くなった状態では神経細胞へのタウタンパク質の蓄積がさらに増加し、神経細胞死がますます進行し、脳の顕著な萎縮が見られるといわれています。
この結果から、タウタンパク質の除去にはグリアリンパ系ひいてはアクアポリン4が大きく関わっていることが考えられ、グリアリンパ系の機能を促進させることが認知症予防につながる可能性が示されました。
グリアリンパ系を活性化させるためには睡眠が大切
グリアリンパ系を活性化させるために私たちができることは、睡眠時間を十分に確保する・睡眠の質を高めることです。ロチェスター大学の研究者らによる動物実験では、深い睡眠(ノンレム睡眠)の際に脳から老廃物を排出する機能が高まることが報告されています。
タウタンパク質だけでなく、アルツハイマー型認知症の原因とされているアミロイドβも一緒に排出するとされており、このシステムは特に睡眠中に機能することがわかっています。
しかし、年齢を重ねるごとに深い睡眠が取りづらくなっている人も少なくないでしょう。睡眠を無理やり取ろうとして、寝付くまでに時間がかかってしまう、途中で目が覚めてしまうようでは、睡眠の質が低下して逆効果となってしまいます。
睡眠の質を高めるためにも、生活習慣の見直しや日ごろのストレス軽減に取り組みましょう。就寝直前の夕食や夜食、朝食を抜くなどの食生活の乱れ、運動不足などは睡眠の質を下げる原因といわれています。その他にも糖尿病や高血圧、がん、うつ病などを有することも睡眠の質を下げる要因であるとも報告されているため、心当たりがある方は一つひとつ見直してみるとよいでしょう。
また、仕事や日常生活内で感じるストレスも睡眠の質を下げる原因となります。様々な要因でストレスをため込んでいる方も少なくないでしょう。環境を変える等のストレス解消法が難しい方は専門医などに相談してみるとよいかもしれません。生活習慣の見直し以上に、ストレスの原因を断つことが難しいと感じる方はいらっしゃると思いますので、一人で抱え込まないことが重要です。
ストレスを軽減して睡眠の質を高めるためには、寝室の快適さ(温度や明るさなど)を向上させたり、寝る前にストレッチをしたりと、睡眠に入る前にできる対策方法が様々あります。認知症のリスクを少しでも軽減したい方は、グリアリンパ系の働きを活性化させるよう心掛けて生活してみてはいかがでしょうか。
まとめ
タウタンパク質が脳内に過剰に蓄積することで脳炎症を引き起こし、神経細胞死による認知機能の低下が認知症の原因の一つであることを解説しました。
タウタンパク質を効率よく脳内から除去する方法として、グリアリンパ系の働きの促進があります。まずは睡眠の質を高めることから対策を始め、生活習慣の見直しやストレスの軽減に努めましょう。
認知症のリスクを少しでも軽減する方法の一つとして、タウタンパク質の除去につながる生活を心がけてみてはいかがでしょうか。
【参考資料】
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター プレスリリース(2022年11月7日)
https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20221107.html
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 プレスリリース(2022年2月28日)
https://www.amed.go.jp/news/release_20220228.html
武州 他 日薬理誌 150 (2017) 141-147
公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/essay/suiminfusai-kaisho/suiminfusai-kenkorisuku-shakai-eikyo.html