温泉の力が認知症予防に?心も身体も健康になる理由とは
2025年01月31日
「温泉」にどのようなイメージをお持ちでしょうか。旅行や癒やし、休養、保養などを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。実は温泉にはさまざまな健康維持に役立つ作用があります。温泉に出かけるという「活動」自体も心身に良い影響を与えるでしょう。
本記事では、温泉の持つ作用や認知症予防との関係についてお伝えします。

温泉の健康効果とは
温泉の持つ作用は、温泉そのものが持つ直接作用と温泉が間接的にもたらす総合的生体調整作用があります1)。そのほかにも、温泉地の気候による作用や、療養泉による一般的な適応症、泉質による適応症など、それぞれの温泉のある場所や温泉の持つ性質などによる作用も得られます。
温泉の直接作用
温泉の直接作用は「温熱作用」「物理作用」「化学・薬理作用」「飲泉」です。
作用の種類 | 作用の詳細 |
温熱作用 | ・痛みの緩和 直接的な温熱刺激により、C線維などにおいて痛みの感じやすさが低下する2) ・筋肉の柔軟性向上・関節拘縮の改善 温熱は筋膜、腱、靭帯、関節包に多いコラーゲン線維の伸展性を高める3) ・血行促進 温熱刺激で皮膚の温度が上がると、体温を一定に保とうとする恒常性維持の働きにより、身体は熱を全身に分散させようとして血管を拡張し、血行が促進される1) ・免疫力向上 自然免疫を担当するNK細胞の数と機能が温熱刺激により増強する4) ・タンパク修復機能 継続的な全身入浴は、細胞修復や組織再生を促すヒートショックプロテイン70(HSP70)の発現を増加させる5) |
物理作用 | 浮力、水圧、粘性抵抗があり、マッサージ効果やむくみの改善が期待できる1) |
化学・薬理作用 | ・炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウムなどにより、温熱作用が持続する1) ・二酸化炭素、硫化水素などによる血管拡張作用1) ・酸性泉、マンガン、ヨードを含む温泉は殺菌効果がある1) ・アルカリ性の温泉は角質や皮脂が剥がれて滑らかになる1) |
飲泉 | ・炭酸水素塩泉:胃酸を中和する1) ・二酸化炭素泉:血管拡張作用により、胃腸の動きが活性化する1) ・含鉄泉:鉄を補給できる1) |
温泉の間接作用
精神的ストレスの指標となる唾液中クロモグラニンAの値が水道水での入浴に比べて温泉では有意に減少したという報告があり、リラックス効果が得られるとされています6)。
温泉がある土地の環境作用
海洋気候、森林気候、高地気候などの温泉がある土地の気候による作用も影響します。
・海洋気候:穏やかな気候や海水や海泥、海藻などを用いた海洋療法による生体への作用が期待できる1)
・森林気候:芳香物質(フィトンチッド)によるリフレッシュ効果が得られる1)
・高地気候:気温や気圧が低いという刺激的な環境による効果が期待できる1)。
(一例として、有酸素運動トレーニングにより持久力の向上などが考えられる)
温泉がある土地の環境作用
海洋気候、森林気候、高地気候などの温泉がある土地の気候による作用も影響します。
・海洋気候:穏やかな気候や海水や海泥、海藻などを用いた海洋療法による生体への作用が期待できる1)
・森林気候:芳香物質(フィトンチッド)によるリフレッシュ効果が得られる1)
・高地気候:気温や気圧が低いという刺激的な環境による効果が期待できる1)。
(一例として、有酸素運動トレーニングにより持久力の向上などが考えられる)
療養泉による一般的な適応症
療養泉(りょうようせん)とは、環境省の指針に基づき、特定の条件を満たした温泉であり、治療や健康増進に適した温泉のことを指します。療養泉では下記のような効果が得られると考えられています。
・筋肉・関節の慢性的な痛みやこわばり ・運動麻痺による筋肉のこわばり ・胃腸機能の低下 ・冷え性・末梢循環障害 ・軽症高血圧 ・耐糖能異常(糖尿病) ・軽い脂質異常症 ・軽い喘息・肺気腫 ・痔の痛み ・自律神経不安定症・ストレスによる諸症状 ・病後回復期 ・疲労回復・健康増進 |
出典:環境省ホームページ https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/ha.pdf7)
泉質別適応症(一例)
泉質別適応症(せんしつべつてきおうしょう)とは、温泉の泉質(成分の種類)ごとに期待される適応症(効能)を示したものです。環境省によって、それぞれの泉質がどのような疾患や症状に効果があるかが定められています。
泉質 |
適応症 |
単純温泉 |
自律神経不安定症、うつ状態、不眠症 |
塩化物泉 |
切り傷、冷え性、末梢循環障害、うつ状態、皮膚乾燥症 |
炭酸水素塩泉 |
切り傷、冷え性、末梢循環障害、皮膚乾燥症 |
硫酸塩泉 |
切り傷、冷え性、末梢循環障害、うつ状態、皮膚乾燥症 |
二酸化炭素泉 |
切り傷、冷え性、末梢循環障害、自律神経不安定症 |
含鉄泉 |
鉄欠乏性貧血(※) |
酸性泉 |
アトピー性皮膚炎、尋常性(じんじょうせい)乾癬、表皮化膿症、耐糖能異常(糖尿病) |
含よう素泉 |
高コレステロール血症(※) 【甲状腺機能亢進症がある場合は注意してください】 |
硫黄泉 |
アトピー性皮膚炎、尋常性(じんじょうせい)乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症 【硫化水素型は末梢循環障害への適応もあり】 |
放射能泉 |
関節リウマチ、高尿酸血症(痛風)、強直性脊椎炎など |
※飲泉で効能が期待される適応症。
なお、飲泉によって体調を崩す場合があるため、注意してください。
出典:環境省ホームページ https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/ha.pdf7)
不活発な生活と認知症の関係
加齢や、ケガ・病気の療養で安静期間があった後などに「活動」が低下すると心身機能が低
下します。閉じこもりなどの不活発な生活は運動機能だけでなく、意欲や自信などの精神機能も低下させ、認知機能の低下にもつながるといわれています。
さらには、心身機能が低下すると、日常的な活動や社会参加の機会はより失われ、不活発な生活が認知機能や運動機能の低下、うつ、口腔機能の低下、栄養状態の悪化などを進行させる悪循環に陥るのです8)。身体的、心理的、社会的な活動性の低下は認知症のリスクを高めるといわれているため、認知症予防には活動的な生活を送ることが大切です。
温泉は不活発な生活に活気をともすきっかけに
温泉は入浴で得られる温熱作用や物理作用だけでなく、温泉に含まれる成分による作用や特有の泉質が特定の症状の治療に役立つ場合があります。
それだけでなく、温泉地に出かける外出や旅行といった活動自体が心身機能の向上にもつながります。温泉地での散策や観光は運動の機会にもなるでしょう。また温泉地のある高地での運動による心肺機能の向上、森林浴によるストレス軽減やリフレッシュ効果、海洋気候の身体への温和な作用など、自然環境がもたらす効果や作用も得られます。
さらに温泉には「休養(心身を休める)」「保養(健康を維持する)」「療養(病気や症状を改善する)」という3つの「養」があるといわれています。温泉が持つさまざまな作用や効果を総じて「温泉療法」とも呼ばれ、症状の緩和や軽減を促す治療方法の一つでもあるのです。
温泉の持つ作用と活気のある生活で認知症予防を
温泉は、入浴による温熱作用や泉質の作用だけでなく、外出という活動そのものも心身に良い影響を与えます。散策や観光を楽しみながら身体を動かすことが運動やリフレッシュにもなり、認知症予防や健康維持も期待できます。
日常から少し離れて温泉で心と身体を整えながら活気あふれるひとときを過ごしてみませんか。
参考
1)日本温泉協会 温泉名人 温泉の医学的効果とその科学的根拠とは!?
https://www.spa.or.jp/onsen/4790/
2)前田真治ら,温熱療法における知覚神経線維の閾値の変化 日本温泉気候物理医学会雑誌 ,2000:63(3):143-150
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001206570467456
3)田中信行ら,温泉環境と健康―新しい温泉の効果と作用機序―臨床環境医学,1994:3(2):71-74
https://www.asahikawa-med.ac.jp/dept/mc/healthy/jsce/jjce3_2_81.pdf
4)Chikako TOMIYAMA et al. The effect of repetitive mild hyperthermia on body temperature, the autonomic nervous system, and innate and adaptive immunity Biomedical Research 2015: 36(2):135-142
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomedres/36/2/36_135/_pdf/-char/ja
5)伊藤要子ら, 全身入浴またはシャワー浴の入浴習慣がその後のHSP入浴法に及ぼす影響 日本健康開発雑誌2021:42:21-30
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhr/42/0/42_202142G03/_pdf/-char/ja