検査できる病院を探す

認知症予防コラム

脂質代謝の異常が認知症の原因に?コレステロールとの関連性

2025年05月28日

超高齢化社会を迎えている日本において、認知症は完治が困難であるため大きな問題になっています。

認知症の約半数から3分の2がアルツハイマー型認知症であるとされています。認知症のリスク因子は様々あり、その中には肥満や糖尿病といった生活習慣に密着したものがあります。

最近の研究では、糖尿病の合併症としても知られている脂質代謝の異常(脂質異常症)と認知症との関連性も研究されており、注目が集まっています。

この記事では、脂質代謝の異常が認知症の原因となり得るのか、コレステロールや先天的リスク因子である遺伝子との関連性をわかりやすく解説していきます。

脂質代謝の異常と認知症

脂質異常症は、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が多過ぎる、あるいはHDLコレステロールが少なすぎるといった状態を示す病気です。脂質異常症とアルツハイマー型認知症の関連性について様々な研究が行われましたが、一致した見解は得られていないようです。その理由として、脂質異常症がアルツハイマー型認知症との関連があるとされる脳血管障害のリスクを高めるものの、脳血管障害の症状との区別が付けづらく、診断が難しいと考えられていたことが一因と思われます。ただし、中年期での高LDLコレステロール(悪玉コレステロール)はアルツハイマー型認知症を含む認知症の発症リスクを高めるといわれ,中年期の高HDLコレステロール(善玉コレステロール)は認知機能障害や認知症発症のリスクを低下させるという研究結果もあります。しかし70歳以降の高齢者では高コレステロール血症を患っていることで認知症のリスクが軽減されるという報告もあり、年代によって異なるという複雑な結果になっているようです。

生活習慣病の中で、糖尿病や高血圧症がアルツハイマー型認知症の危険因子であることは多くの研究で支持されており、同じく生活習慣病である脂質異常症も無視できない要素といって差し支えないでしょう。

九州大学が報告した「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」の報告において、認知症の有病率がその10年ほど前に発表された見込み数値よりも低下していることが示されました。その理由として、喫煙率の全体的な低下、中年期~高齢早期の高血圧や糖尿病、脂質異常などの生活習慣病管理の改善、健康に関する情報や教育の普及による健康意識の変化などが挙げられており、脂質異常症の対策が認知症予防につながる可能性が示されています。

APOEε4遺伝子が認知症のリスクを高める

脂質の輸送にも関わるタンパク質であるアポリポタンパク質E(ApoE)の設計図に相当するAPOE遺伝子は主に3種類あることが知られ、それぞれAPOEε2, APOEε3, APOEε4と呼ばれています。このうち、APOEε4はアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めることが知られています。両親のどちらか一方からAPOEε4を貰った場合(APOEε4を1つ持っている場合)はアルツハイマー型認知症の発症リスクが約3倍になり、両親の両方からAPOEε4を貰った場合(APOEε4を2つ持っている場合)は約12倍になるといわれています。

アミロイドβの蓄積量を検査する「アミロイドPET検査」を行うと、健常者でもAPOEε4を持つ場合は、蓄積量が多くなる傾向があるようです。このため、APOEε4を持つことがアミロイドβの凝集促進や排出機能の低下につながると考えられています。アルツハイマー型認知症患者の脳にはアミロイドβが脳内で凝集して形成される老人斑がみられます。このため、APOEε4が老人斑の形成に寄与していることが考えられます。

APOEは、 HDLの産生を担うタンパク質であるABCA1というコレステロールの輸送に関わる物質によって脂質と合体し、細胞に取り込まれます。さらに、APOEと脂質の複合体にアミロイドβが合体して細胞に取り込まれて分解される過程において、APOEε4が何らかの影響を与えている可能性が考えられます。

スタチンが持つアミロイドβ低下作用

スタチンとは、肝臓におけるコレステロールの合成を抑制し、血中コレステロールを低下させる薬です。

スタチンを服用していた人はアルツハイマー型認知症発症頻度が低下したという研究結果や追跡調査の結果、スタチン服用者では発症率が約半分になったとする研究結果があります。

その一方で、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症患者について、約1年半スタチンを服用しても認知機能が改善されなかったという研究結果があります。

一見すると結果が相反しているように思えますが、スタチンには認知症の治療効果はなくとも、予防効果が期待されるという解釈ができそうです。複数の研究から、スタチンにはアミロイドβ低下作用があることが報告されていて、アミロイドβになる前の物質の段階(前駆体)の分解を促進していることがわかってきました。

スタチンによってアミロイドβの前駆体が分解されることは、アミロイドβの産生を抑制すなわちアミロイドβの絶対量の低下につながると考えられます。

まとめ

超高齢化社会を迎えている日本において、認知症の予防・治療方法が確立していない点は大きな問題であり、日々研究が進められています。その中でも脂肪代謝の分野は様々な研究結果があり、今後も研究が必要な分野です。

それでも、APOEε4のような認知症の遺伝因子や脂質を低下させるスタチンなどの研究が進んでおり、認知症との関連性も徐々にわかってきています。今後、さらに研究が進み、認知症の予防や治療につながることが期待できるでしょう。

 

参考文献

Livingston G. et al. Lancet 404 (2024) 572-628

Hsiung GY. et al. Alzheimers Dement. 3 (2007) 418-427

脂質異常症と認知症予防|健康長寿ネット

脂質異常症|病気について−国立循環器病研究センター

脂質による健康影響|農林水産省

ハンドブック|厚生労働省

高齢期の体格・代謝性疾患の組み合わせと認知症リスク

認知症になりにくい食生活について

栄養代謝調整経路の変容による認知機能低下発症機構の解明に関する研究

認知症と脂質代謝

血中HDLと軽度認知障害・認知症との関連|現在までの成果

・脂質とアルツハイマー病

・認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究 資料